受賞のことば

新井 爽月

 新美南吉童話賞受賞のお知らせを頂いたのは、11月8日午前中のことでした。
 勤務中だったこともあり、携帯の画面に映し出された見知らぬ番号を目にしても、「仕事先の誰かかもしれない」と何の疑いもなく着信のボタンをタップしていました。ところが、電話口の女性は、「もしもし、新井さんですか?」と私を筆名で尋ねてきたのです。こちらも勢いでつい、「はい。そうです。新井ですが……」と答えたものの、私にはまだ何のことか、さっぱりわからずにいました。そんなこともあり、その後受賞の知らせを聞いた時も、自分が何をどう答えたのか、正直なところあまり覚えていないのです。声が震えてしまっただけでなく、あふれる涙をこらえることもできなくて。感動のあまり、ただひたすら「……ありがとうございます」と答えるのが精一杯でした。
 電話を切った後、脳裏に浮かんだのは、昨年私に襲いかかった様々な出来事でした。一年の間に、三度もの入院と手術を繰り返し、あらゆるものから休むことを余儀なくされた日々。
 入院中も、病室に原稿を持ち込み、時間を見ては創作に励んだものの、なかなか思うようには書けずにいて。書きたいという思いとは裏腹に書けない日々がどんどんと目の前から過ぎ去り、焦りだけが募って行きました。
 書きたい。書きたい。書きたい。けれど、書けない。退院こそしたものの、当時まだ体調が万全でなかった私は、いくら原稿を前にしても、何の言葉も浮かんでこない状態にありました。そんな自分が、くやしくて、情けなくて、ふがいなくて――。もう一度書けるようになった時、あまりの嬉しさに嗚咽をあげて泣き崩れたこともありました。
 そんなこともあり、このたびの受賞は、私が長年憧れ続け、待ち望んだ大いなる一歩となりました。折しも、新美南吉生誕100周年という記念すべき年に受賞できたことも、この上ない栄誉ならば、一年の間に二度もの嬉しい結果を手にできたこともこの上ない喜びです。本当にありがとうございました。さらなる飛躍を目指し、2014年も一歩一歩、前進して行けたらと願っています。

トップにもどる