受賞のことば

新井 爽月

 このコンテストのことを知ったのは、昨年秋のことでした。普段よく利用している最寄りの駅構内で、「鉄道小説大賞」募集との広告を目にしたのです。相鉄沿線の街、人、自然をテーマに「ものがたり」を募集しているなんて、面白そうだな、と思ったのですが、応募締め切りまで間がないことを知り、時間がないから無理か……と、半ば諦めかけていました。それでも尚、挑戦してみようと思い立ったのは、やらずに後悔するより、やるだけやって後悔した方がまだマシではないかと思ったからです。
 当時、私は、長年勤めていた会社を辞め、フリーになったばかり。時間が無いなどという言い訳は通用しませんでした。書こうとする意欲さえあれば、いくらでも書く時間を捻出できる生活を送っていたのです。
 見切り発車ともいえる状態で書き始めてみたものの、迷う気持ちと不安な思いでいっぱいでした。「鉄道小説大賞」という名を冠するからには、鉄道のことについて詳しくなければいけないのではないか、という考えが常につきまとっていたからです。
 そのため作品には、作者自らの揺れ動く気持ちを隠すことなく、ありのままを書こうと努めました。鉄道に関して何ら特別な知識や情報を持たない私だけれど、鉄道に乗り合わせる人々の生活や思いならば、寄り添うことができるのでは、と思ったのです。
 今回の作品に限らず、私がこれまでずっと心がけていたのは、最初のページをめくった時と、最後のページを読み終えた際、ほんのわずかでもいいから、読んで下さった方の気持ちが明るくなるような物語を書き続けたいという思いでした。
 どんなテーマであったとしても、明日への希望を感じるような物語を書きたい。今、ここにいることの感謝が、自然とわきあがってくるような書き手で在りたい、と――。
 今回、このように素晴らしい賞を賜れたのは、多くの方々に背中を押してもらえたお陰であると思います。挑みたいという気持ちに正直になれたのも、傷つくことを恐れず、立ち向かうことができたのも、季節風の熱風を幾度となく浴び続けてきたからこそと深く深く感謝しております。本当にありがとうございます。今後も、チャレンジすることを恐れず、一つ一つの作品に向き合って参ります。

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