受賞のことば

石川 純子

 いつも遊びにくる小学四年生のA子ちゃんが、我が家の台所で宿題をしていました。テレビでは、どのチャンネルも「父の日、父の日」とにぎやかです。そのとき、いきなりテレビに向かって「父の日なんかいらんわ」と大きな声で言いました。A子ちゃんは、母と知的障害のある兄との三人家族。学校で父の日に「お父さんへの手紙」を書いてくる宿題が出て困っていました。父親のいない子は、お祖父さんでも、叔父さんでもいいとか。「そんな人、おれへんもん」とぼそり。私は、子どもの頃からなぜあんなに「母の日」とか「父の日」を世間や学校で、ことさら話題にするのか気になっていました。さまざまな事情のために家族で暮らせなかったり、寂しい思いをしている子がたくさんいるというのに。私が子どもの頃母の日には、学校で赤いカーネーションの造花を胸につけてもらいました。母親のいない生徒には、白いカーネーション。白いカーネーションが、とても悲しく見えたものでした。まさか、平成の時代にそんな事もないでしょうが当時、それが話題になった事はほとんどありません。 子どもたちは、さまざまな事情も乗り越えていかなければならないから、こんな宿題からも逃げるわけにはいきません。A子ちゃんの本音のつぶやきは、私の心にグサリとささりました。父親のいない主人公が、父の日の作文をいかに考え、工夫してクリアしていったかを書きました。高橋秀雄さんに、「受賞のことば」を書くように言っていただき恐縮しています。兵庫県限定の賞ですが、この受賞は書きつづけている私にはとても励みになりました。これからも、子どもの心によりそった作品を書きつづけていきたいと思います。

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