受賞のことば

いとう みく

 この賞のこと、ご存知ですか? 知る人ぞ知る的な、なかなかに稀有な賞なのです。
 簡単にご紹介しますと、「うつのみやこども賞」というのは、子どもが選ぶ児童文学賞です。選定委員である小学五、六年生が毎月四冊読んで、一番面白かった作品を「今月の本」として選びます。そして年度末に「今月の本」のなかから、最も面白かった本を選ぶのだそうです。
 わたし、この賞にひそかに憧れていたのです。児童文学作家として、子どもに面白いと言ってもらえることほど嬉しく、そして名誉なことはありません。と、いま書いておいてなんですが……。考えてみたらわたし、子どものためにとか、子どもたちに喜んでもらえるものを、と思って書くことはほとんどありません。大抵、わたしはわたしの好奇心で書いています。これは児童書の書き手としては、あるまじきことなのかもしれないのですが、仕方がありません。もちろん、出来上がった作品が子どもたちに喜んでもらえたら嬉しいですし、作品からなにか感じてもらえることがあったら最高なのですが。
『羊の告解』は、ある日突然、加害者家族になった中学三年生の涼平の心の機微を書きました。殺人を犯した父親、その息子が主人公の物語です。ヒーローも出てこなければ、主人公が活躍をするわけでもありませんし、なにか成し遂げるわけでもありません。正直、重い作品です。
 ですが、この物語を子どもたちが「面白かった」と選んでくれた。そのことに感激しました。同時に子どもをなめちゃいけない……と。自戒を込めて。

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