受賞のことば

いとう みく

 正しいと思ってしたことが、もし間違っていたかもしれないと気づいてしまったら……。
 そんな漠然とした思いから書いたのが『真実の口』です。
 わたしが書く作品はどれも共通しているのですが、書き始める段階では、ストーリーも結末もなにも見えていません。
 頭の中にあるのは、ある出来事に、ある背景を持っている子が出くわしたら、その子はどう感じ、行動し、なにを得ようとして、なにを守ろうとするだろう。
 そんなことを考えて書いていきます。
 ですので、毎回書きながら迷子になります。どこに向かっていくのかわからなくなって、放り出したくもなります。なんでこんな物語を書きだしてしまったのだろうと激しく後悔もします。
 行きつ戻りつしながら、それでも書いていくと、だんだん主人公が見えてきます。その瞬間、わたしはわたしが描きたかった人や、知りたかったことに気づかされます。
『真実の口』も同じように、七転八倒、迷宮に迷い込み、途方に暮れながら紡いでいきました。
 主人公である高校生の律希や湊、未央のとった行動に、それってやばいんじゃない? と書きながら心配にもなりましたが、彼らがどう決着をつけるのか、そこまで放り出さずに書こう。それが書き手としてのわたしの責任だと思いました。
 正しいことを書いたつもりはありません。なにをどうするのが正解だったかはわかりません。でも、わからないなかで必死に一人の少女を守ろうとした彼らのことをわたしは誇らしく、また愛おしく思っています。
 そんな作品で、子どもたちが選者である「うつのみやこども賞」、そして作家や評論家、研究者という立場の方が選者である「日本児童文学者協会賞」を頂けたことに、背筋が伸びる思いです。
 どうもありがとうございました。

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