ただただ奇跡か幸運

高橋 秀雄

 拙著「地をはう風のように」(福音館書店)が、第58回青少年読書感想文中学校課題図書に選ばれた。思えば「季節風」四十九号に「ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、らんらんらん」を掲載してもらってから、断続的に載せてもらった作品ばかりだ。本になることさえ夢の夢の時代だ。まとめて某社に送ったら出してくれるとのこと。それからが長かった。出版社の都合で延びに延びて、感熱紙の原稿は真っ黒になったに違いない。数年後その出版社をあきらめて、某社を紹介してもらった。それからも数年たった。
 そんな時代を過ぎたとき、「やぶ坂に吹く風」で第四十九回日本児童文学者協会賞を受賞した。そのパーティのとき、福音館書店の編集長から「ぜひうちにも書いて」といううれしい言葉をもらった。お互い飲んでいたから信じられなくて、何度も確かめた。そのとき、もう一社さんからそんな言葉をかけてもらったが、未だに音沙汰がない。なら、出したかった一作をと思い、「地をはう――」を送らせてもらった。その後の対応の早さにもびっくりしたが、女子高校生のような担当さんまでつけて頂いて、信じられないほどの速さで出版してもらった(担当さんの産休という事情も重なって)。
 昔、出版のOKをもらったとき、季節風の最上一平氏がタイトルを覚えなくて「地べたを這いずる」と呼んでいた。そこへまた、絵詞作家の内田麟太郎氏が「蝦蟇のように」と足して、三人で呼び合うタイトルは「地べたを這いずる蝦蟇のように」になっていった。
 でも、正しいタイトルで選ばれ、全国の中学生や大人の人に読まれるようになった。担当さんは課題図書の感想文で賞をもらったことがあるという。そんな本に選ばれる作品を担当してくれたことを喜んでくれた。本当は奇跡か幸運か、だろうけれども、季節風に掲載されたからこそ、今があると思う。気に入った文章だったから、墓碑銘に使わせてもらった。霊園に墓参りに来た人に気がついてもらって、ずっと売れ続けてもらうことが願いだ。儚い夢だ。

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