受賞のことば

安田 夏菜

 今回は児童文学での受賞でなく、全くの番外編。それなのに厚かましく「受賞の言葉」など書かせて頂くことをお許しください。
 四年前、思わぬ病で闘病を余儀なくされました。一年がかりで治療を受けましたが、体調も気持ちも、なかなか元にもどりません。鬱々と日々を過ごしていたころ、桂枝雀師匠の落語「親子酒」のCDに出会いました。
 笑いました。まだ笑えるんだと思いました。笑えたことが嬉しくて泣けました。その日から落語に、はまってしまいました。アイポッドに落語を容量限界まで入れ、四六時中イヤホンを耳に突っ込んでいるため、「いくら話しかけても聞いてない!」と夫に怒られたくらいです。
 そのうち自分でも、落語を書いてみたいと思うようになりました。子供向けの落語台本などを同人誌に書いたりしていましたが、ある日、上方落語協会が創作落語台本を募集しているのを知りました。入選すれば上方落語の聖地「天満天神繁昌亭」で、プロの噺家さんが高座にかけてくださるのです。
 これだ、と公募魂に火がつきましたが、一年目はあえなく撃沈。二年目の今年、上方落語評論家のやまだりよこ氏に、原稿を見ていただく機会に恵まれました。「笑いどころがない」と酷評され、「せっかく童話を書いているのなら、その世界を生かして書けばいいのに」と助言して頂きました。
 そこで書いてみたのが、この入選作です。
 経営不振の歯医者さんにやってきたのは、前歯の欠けた皿屋敷のお菊さん、歯槽膿漏の白雪姫、歯抜けになった人呑鬼……。ちょっとブラックな童話テイストの、ファンタジー落語です。一月末に、月亭八方師匠が高座にかけて下さる予定です。
 今、不思議な思いに包まれています。
 病気になったから、落語に出会った。
 長年児童文学にしがみついていたから、落語で入選作を書けた。
 無駄なことなど何一つなかったんですね。
 願わくば、今度は本業(?)の児童文学に落語を取り入れ、子供たちに笑顔を運べますように。それが現在の、私の夢です。
 みなさん、笑うって素晴らしいですよ!

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