受賞のことば

工藤 純子

 この作品は、十年以上前に書いた、十枚程度の短編がもとになっています。それを後藤竜二さんにほめてもらったことが嬉しくて、長編にしようと心に決めました。
 はじめは、吹奏楽部の女の子と野球部の男の子が出てくる恋愛ものでした。それがどうして、新大久保が舞台になったのか……。学生時代に友人が住んでいて、街そのものの記憶が強烈に残っていたのだと思います。
 新大久保という町は、その姿を目まぐるしく変えてきました。どれが本当というよりは、時代そのものを反映していると思うのです。韓流、人種問題、ヘイトスピーチ……そのまっただ中で、中学生の男女が何を思い、どんなふうに生きようとするか、とても興味を持ちました。
 十枚の短編が長い時を経て、そんな変化を遂げているとは、後藤さんでも予想できなかったと思います。でも、そういえば……。
 生前、後藤竜二さんは、「オレが守ってやるから、自由に書け」といってくださいました。書きたいことを自由に書くなんて、当たり前じゃないかといわれそうですが、実は怖いことでもあります。世間の目が気になったり、たたかれたり。ビビりなわたしは、つい腰が引けてしまいそうになります。
 しかし! わたしはもう、十年前とは違うはず。守ってやると言ってくれる人はいませんが、季節風の仲間がいるし、応援してくれる人もたくさんいると知っています。
 だから今度は「守ってやる!」と言える人になりたいと、今回の受賞でそんなことを思いました。

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