第3回児童ペン賞「童話賞」を受賞して

楠 章子

 私が小学生の時に祖母が若年性認知症になり、私が20代の時、母も同じ病に。母が発症してからは、20年近く、祖母の時から計算すれば30年以上、私は「認知症」というものに捕われてきました。
 書くことは癒しになると、越水利江子さんは私に教えて下さいましたが、思えば、初稿は救いを求めるようにして書いた気がします。
 ただそれでは本にならず、自分から離してみたり、また近づけてみたりしながら、改稿を重ねました。絵本の短い文章を、何度も読み返し、何度も書き直しました。
 どうしても本にしたかったのです。祖母の時代からすれば、日本の介護はずいぶん拓かれました。今、母を介護するにあたり、その事をしみじみ感じています。この先、もっと拓かれて欲しい……祈るような気持ちが、私をあきらめさせませんでした。たった一冊の絵本がこの社会に与える影響なんて、ほんの少しかもしれない。でも「未来」を信じて、ペンの力は大きいと信じて。
 童心社の大熊悟さんにひっぱって頂きながら、『ばあばは、だいじょうぶ』はようやく本の形になりました。一冊の絵本は、願い通り、いえ想像以上に多くの方に届いています。
 ペンの力はやはり大きい! さらに、このたびは児童ペン賞「童話賞」という素晴らしい賞まで頂く事が出来ました。絵本というのは、絵と物語がぴったり合い、1+1=2以上の仕上がりでなければいけないと思います。石井勉さんの絵は、まさに文章が描ききれない部分を描き、物語世界を味わい深いものに高めて下さいました。
 大熊さんと石井さんに、心から感謝申し上げます。それから「おめでとう」と声をかけて下さった季節風のみなさま、ありがとうございます。お祝いされる側は慣れていないので、素直に嬉しそうな顔をしていなかったかもしれません。でも、とても嬉しいです。

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