受賞のことば

高田 由紀子

 2017年の夏。私は地元である新潟県の佐渡にできたばかりのミニシアターを取材させてもらった。何十年もの間、佐渡には映画館がなかった。
 オーナーの堀田さんがIターンで古民家を改築し、ブックカフェも併設したミニシアターのセンスと居心地の良さに、私の中でずっと書きたいと思っていた少女たちが、その場所にいる感覚をおぼえた。
 専業主婦をしていた私は、たくさんの母親と交流する中で、強い理想や夢を持った親と子どもが合っている場合はいいけれど、そうでない場合の息苦しさを感じることがあった。また、もう一つ気になっていたのが「学校に行きたくなければ、行かなくてもいいんだよ」という言葉がよく聞かれるようになっていたことだった。私が佐渡にいたころ、不登校だった同級生は、いったいどこにいたんだろう。まだあのころ、スマホもネットもゲームもない家にいたんだろうか。じゃあ、現代の、都会の子たちだったら、他に居場所があるんだろうか。ホッとする居場所って、いったいどこなんだろうか?
 私の中でひざを抱えていた少女たちと、私の疑問が、その場所で解放され、少しずつ物語が動き始めたのを感じた。
 そして佐渡から自宅に戻るのと同時に、PHP研究所の担当編集者さんから速達の封書が届いた。お会いすると「佐渡を舞台にした物語をうちでも書きませんか」と言われ、この物語が書きたいことを伝えるとすぐにOKをいただいた。だが書くということ、本という形で出版するということは、喜びであるのと同時に怖いことでもあるとこの話の執筆を通して実感した。でも、いつもそこに立ち向かっている季節風の先輩や仲間の姿が、私を支えてくれた。一人で書ける人もいるが、私にはとうてい無理である。いつも、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
 私の手元にある「季節風」がついにこの夏で50冊を超えた。仲間に会えない時、書けない時は一人でこの50冊に手を伸ばす。亡くなられた後藤さんの言葉に出会いなおすことがある。新しい才能のハッとする一文にギリギリと線をひくことがある。自分でも不器用だなあと思う。でもそうやって、これからも書き続けていきたい。

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