受賞のことば

安田 夏菜

 このたび「むこう岸」で、またまた嬉しいお知らせをいただきました。
「ホワイト ・レイブンズ2019」
 これは、ミュンヘンの国際児童図書館が毎年選出している、国際推薦図書のことです。世界で二百冊の児童書が選ばれ、日本からも八冊が選出されました。なんだかオリンピックに出してもらえたようで、とてもとても光栄です。
 もうひとつ、「貧困ジャーナリズム大賞2019特別賞」
 お知らせいただいたとき、不思議な思いにとらわれました。「むこう岸」は、私という物書きが書いたフィクションです。ジャーナリストが取材を重ねて書き上げた、リアルなルポルタージュではないのです。もちろん、今まで知らなかった生活保護の世界を、それを下支えしている法律や制度を、必死に調べはしましたが、 ストーリーも登場人物も想像力の産物です。
 表彰式にずらりと居並ぶのは、某国営放送や大新聞社の記者さんたち。端っこに座らせてもらいながら「いいんだろうか」「いいんだろうか」と縮こまっていました。けれども、思い出したことがありました。
 もう何十年も前に、私は少しの間だけ、ジャーナリストだったのでした。テニス部で挫折し、家庭科部でも落ちこぼれた中三の私が、流れついたのが新聞部だったのです。腕章をつけ、学校行事の取材なんかして記事にするとき、得も言われぬ高揚感で心が弾みました。コラムを書いてみないか、と顧問に言われたときには、飛び跳ねたくなりました。なにを書こう。どう書こう。どうしたら、もっと伝わりやすい記事になるだろう。
 そう、私の文章修業は、新聞部から始まったのでした。「むこう岸」がフィクションでありながら、ジャーナリズムとしても評価していただけたのは、かつてミニ記者だった私がいたからかもしれない。そう思うと、しみじみとした喜びが胸に満ちたのでした。
 よかったね、と中三の自分に言ってやろうと思います。

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